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札幌地方裁判所 昭和54年(ワ)5028号 判決

原告

城木浩一

城木恵美子

右原告ら訴訟代理人

畑中広勝

外二名

被告

有限会社立花運送社

右代表者

立花久一

被告

倉掛幸男

右被告ら訴訟代理人

曾根理之

主文

一  被告らは連帯して、原告城木浩一に対し七四三万五五七六円及び内金六八三万五五七六円に対する昭和五五年六月一一日からその支払の済むまで年五分の割合による金員、同城木恵美子に対し、六八〇万七〇八三円及び内金六三〇万七〇八三円に対する昭和五五年六月一一日からその支払の済むまで年五分の割合による金員の各支払をせよ。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、

一  原告らは連帯して、原告城木浩一に対し金二三六九万円、同城木恵美子に対し金二三一四万円並びに同城木浩一に対する金三〇六三万円、同城木恵美子に対する金三〇一三万円について昭和五四年四月二一日から昭和五五年六月一〇日までの、及び原告城木浩一に対する金二〇六三万円、同城木恵美子に対する二〇一三万円につき昭和五五年六月一一日から右完済に至るまで年五分の各割合による金員の支払をせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因及び抗弁に対する認否として、

一  訴外城木啓行は次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて死亡した。

1  日時 昭和五四年四月二一日午後四時四五分頃

2  場所 札幌市北区北三四条西五丁目先の市道交差点(以下「本件交差点」という。)

3  加害車両 被告有限会社立花運送社(以下「被告会社」という。)所有の普通貸物自動車(札一一あ六九四〇)

4  右運転者 被告倉掛幸男

5  事故態様 加害車両が国道五号線通称札幌新道を小樽方面から丘珠方面に向け進行するため、本件交差点を左折する際、折から同交差点を自転車で横断中の啓行にその左前部が衝突した。

二1  被告会社は加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していたので、自動車損害賠償保障法(自賠法)第三条の規定により、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償すべき義務を負う。

2  また本件事故は、被告会社の被用者である被告倉掛が、被告会社の事業を執行中に後記の過失によつて惹起したものであるから、被告会社は民法第七一五条第一項によつても原告らに対する損害賠償責任を負う。

3  被告倉掛は、本件事故時、加害車両を運転して交通整理の行なわれている本件交差点にさしかかり、これを左折進行しようとしたところ、この時既に進路前方の交通信号機は赤信号を表示していたのであるから直ちに停止すべき注意義務があるのにこれを怠り、右信号を無視して左折進行した過失により加害車両左前部を啓行乗車の自転車に衝突させて同人を転倒死させたのであるから、民法第七〇九条の規定によつて原告らに生じた損害を賠償すべき義務を負う。

4  本件事故時、啓行は本件交差点を左折中であつてその左折につき過失がある旨の被告らの主張は否認する。

三  本件事故によつて原告らが被つた損害は次の通りである。

1  啓行の逸失利益 四〇二七万円

啓行は本件事故時、札幌市立新川中学校三年に在学していた(満一四歳)が、学力優秀かつ健康な男子で、卒業後は道立札幌北高、北大農学部への進学を希望していた。本件事故がなければ啓行は大学卒業後六七才に達するまで四五年間稼働可能であつたから、この間の逸失利益は新大卒男子労働者の年間平均賃金三四六万七三〇〇円から生活費五〇パーセントを控除し、ホフマン係数を用いて本件事故当時の現価を算出すると四〇二七万円となる。

2  啓行の慰藉料 一〇〇〇万円

啓行の死亡による同人の慰藉料は一〇〇〇万円が相当である。

3  原告らの慰藉料 合計一〇〇〇万円

原告浩一及び同恵美子はそれぞれ啓行の父及び母であるが原告両名は、浩一の経営する造園業株式会社グリーンガーデンの後継者としてその成長を楽しみにしていた啓行の不慮の事故死によつて悲嘆のどん底に突き落とされた。原告らの右精神的苦痛に対する慰藉料としては各金五〇〇万円が相当である。

4  葬儀費用 五〇万円

原告浩一は昭和五四年四月二二日に啓行の葬儀を行ない、その経費として合計三四四万円余を支出したが、そのうち五〇万円を本訴で請求する。

5  原告浩一及び同恵美子は啓行の両親として、啓行に生じた前記1及び2の損害賠償請求権を法定相続分に従つて相続した。

6  弁護士費用としては、原告浩一については三〇六万円、同恵美子については三〇一万円が相当である。

7  原告らは昭和五五年六月一〇日、自賠責保険金二〇〇〇万円を受領したので、各一〇〇〇万円を損害内金にそれぞれ充当した。

四  よつて被告らに対し、原告浩一は前記未払損害金二三六九万円並びに三〇六三万円に対する本件事故の日である昭和五四年四月二一日から昭和五五年六月一〇日まで及び二〇六三万円に対する昭和五五年六月一一日からその支払の済むまで民事法定利率年五分の割合による各遅延損害金の支払を、また同恵美子は前記未払損害金二三一四万円並びに三〇一三万円について本件事故の日である昭和五四年四月二一日から昭和五五年六月一〇日まで及び二〇一三万円につき昭和五五年六月一一日からその支払の済むまで民事法定利率年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

と述べ、立証として、甲第一号証及び同第二号証、同第三号証ないし同第八号証の各一・二、同第九号証ないし同第一四号証、同第一五号証の一・二を提出し、原告城木浩一本人尋問の結果を採用し「乙号各証の成立はすべて認める。」と付陳した。

被告訴訟代理人は、

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。との判決を求め、請求の原因に対する認否及び抗弁として、

一  請求の原因第一項中、啓行が本件交差点を横断中であつたことは否認し、その余は認める。

二1  同第二項1中、被告会社が加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していたことは認めるが、その余は争う。

2  同2のうち、被告倉掛が被告会社の被用者であること及び同人が本件事故当時被告会社の事業を執行中であつたことは認めるが、その余は争う。

3  同3のうち、被告倉掛が本件交差点を左折しようとしたこと及び加害車両前部を啓行の自転車に衝突させて転倒させたことは認めるが、その余は争う。

4  本件事故当時、被告倉掛は加害車両を運転して札幌新道を手稲方面から本件交差点にさしかかり、前方の青信号に従つて進行して麻生方面に左折中、本件交差点を同じく手稲方面から麻生方面に自転車に乗つて左折進行中の啓行に加害車両前部を衝突させたものであるが、本来自転車は道路の左側端に寄つて通行すべきところ、啓行は本件交差点で左折するに際し、道路中央方向に3.9メートルもはみ出して進行したため本件事故に至つたものであるから、啓行の右過失は損害の算定にあたつて斟酌しなければならない。

三1  同第三項1は争う。原告らの逸失利益計算方法は、本件事故当時中学生であつた被害者について大学卒業を前提とした平均賃金を基準とし、かつホフマン方式によつている点が不当である。〈以下、事実省略〉

理由

一訴外城木啓行が昭和五四年四月二一日午後四時四五分頃、札幌市北区北三四条西五丁目先の市道交差点において、被告倉掛運転にかかる普通貨物自動車(札一一あ六九四〇)に衝突された(本件事故)ことによつて死亡したことについては当事者間に争いがない。

二1  また右加害車両は被告会社の所有にかかるもので、被告会社がこれを自己のために運行の用に供していたことについても当事者間に争いがないから、その余の点について判断するまでもなく、自賠法第三条の規定に基づき、被告会社が本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償すべきことは明らかである。

2  次に被告倉掛の責任原因について判断するに、〈証拠〉によれば、本件交差点は国道五号線(通称札幌新道)の東進路、市道西五丁目通り及び新琴似方面へ至るもう一本の道路が交わる変形交差点であり、交通量が多く、交通信号による交通整理が行なわれていること、被告倉掛は加害車両を運転して右札幌新道を手稲方面から東進し、前方の青信号に従つて本件交差点に進入し、これを市道西五丁目通り(麻生方面)へ左折しようとしたこと、その際右青信号が変わらないうちに左折することのみが念頭にあつたために自車左前方への注視を怠つたままで進行した過失によつて、折から札幌新道を加害車両と同じく手稲方面から本件交差点に入り、麻生方面へ自転車で左折進行中であつた啓行に気づかないままこれに自車左前部を衝突させてその場に転倒させ、内臓破裂等によつて死亡させたことが認められる。従つて民法第七〇九条の規定によつて、被告倉掛は本件事故に起因する損害を賠償すべき義務を負う。

3  ここで被告らは、啓行にも自転車に乗つて本件交差点を左折するに際し、道路左側に沿つて通行しなかつた過失があると主張するので、この点について検討するに、〈証拠〉によれば被害者が本件交差点を手稲方面から麻生方面へ左折中であつたことは明らかである(原告らはこれを争うが、右乙第六号証は本件事故目撃者の客観的な目撃状況を記載した書面として十分信用に値するものであると考えられる。〈証拠〉によれば、別件刑事裁判において、第一・二審とも同一の証拠資料に基づいて同一の判断に至つていることが認められる。)ところ、〈証拠〉によれば、加害車両が啓行に衝突したのは札幌新道及び新琴似に至る道路を隔てる三角状の端から3.9メートル中央寄りの地点であることが認められるから、啓行は本件交差点内で左折するに当り、右三角状の土地をかなり大きく外側にふくらんだ形で左折しようとしていたことになる。

しかしながら、同じく右〈証拠〉によれば、右三角状の土地は本件交差点を南北に通る市道西五丁目通りの西側から約3.4メートル西側へ引つ込んでいることが認められるから、右市道西五丁目通り(麻生方面)へ進行しようとしていた啓行が前記地点にいたことから直ちに同人が道路の左側端を通行しなかつたことになるかどうか多少の疑問が残る上、前記甲第一五号証の二には「当時新琴似方面から進行して本件交差点の手前で停止していた自動車の前部が本件交差点の中に出ていたので、啓行がやむなくふくらんだ形で左折しようとした」旨の記載があるので、これらの事実を併せ考えれば、自転車に乗つた啓行に道路左側端を通行しなかつた過失があつたということが証明されたものとすることはできず、被告らのいわゆる過失相殺の抗弁は採用することができない。

三進んで本件事故による原告らの損害について判断する。

1  まず啓行の逸失利益については、同人が本件事故当時、満一四歳で中学三年生であつたことは〈証拠〉によつて明らかであるところ、〈証拠〉によれば、啓行は札幌市立新川中学校において同学年約二三〇名中概ね上位一〇人中に収まる優秀な成績を維持していたこと、大学進学を前提として札幌北高への進学を希望していたこと、またその両親(即ち原告両名)はいずれも大学を卒業し、啓行も大学に進学させる意思を有していたことが認められるから、啓行についても大学進学が確実視され、従つて大学卒業者の平均賃金を用いてその逸失利益を計算するのが相当であると考えられるところ、賃金センサス(昭和五二年度)によれば、産業計・企業規模計新大卒男子労働者の全年令平均賃金は年額三四六万七三〇〇円であるから、生活費五〇パーセントを控除した上、二二才から六七才までの期間に対応するライプニッツ係数12.03(六七才から死亡当時の一四才を減じた五三年に対応する係数18.4934から、二二才から一四才を減じた八年に対応する係数6.4632を減じたもの)を乗じると二〇八五万五八〇九円となる。

2  原告らの主張する啓行自身のその死亡に対する慰藉料については、死者本人の死亡を原因とする慰藉料及びその相続という概念はこれを認めることは相当でないから、右請求は失当である。

3  原告両名の個有の慰藉料については、これまでに述べた事情及び弁論の全趣旨によつて認められるところの、原告両名がかねて啓行の成長を殊の外楽しみにし、就中原告浩一の事業の後継者として嘱望していたという事実に徴し、原告それぞれについてその請求通り各五〇〇万円をもつて相当と認める。

4  葬儀費用については、〈証拠〉によれば、原告浩一は啓行の葬儀費用及びその関連費用として合計三四四万円余を支出したことが認められるが、ここではその請求通り、五〇万円をもつて本件事故と相当因果関係を有する同人の損害と認める。

5  原告両名が啓行の両親であつて啓行の損害賠償請求権、即ちここでは本項1の逸失利益請求権を法定相続分に従つて相続したこと及び原告らが昭和五五年六月一〇日、自賠責保険金二〇〇〇万円を受領して各一〇〇〇万円をそれぞれ損害内金に充当したことは当事者間に争いがないので、本件事故日から右保険金受領日までの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金(右四一六日間で、原告浩一につき九〇万七六七二円、同恵美子につき八七万九一七九円。いずれも円未満切捨)も計算した上で以上の各金額を差引勘定すると、原告浩一について六八三万五五七六円、同恵美子について六三〇万七〇八三円となる。

6  弁護士費用については、原告両名が本訴の提起・追行を原告代理人に委任したことは本件記録に徴して明らかであるところ、原告らの請求権、前記認容額、その他本件訴訟に現われた一切の事情を考慮して、原告浩一について六〇万円、同恵美子について五〇万円をもつて相当と認める。

四以上の事実及び判断によれば、原告らの本訴請求は、原告浩一について未払損害金七四三万五五七六円及びこれに対する弁護士費用を除いた内金六八三万五五七六円について自賠責保険金受領の翌日である昭和五五年六月一一日からその支払の済むまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を、同恵美子についても同様に六八〇万七〇八三円及び内金六三〇万七〇八三円に対する昭和五五年六月一一日からその支払の済むまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余はいずれも理由がないからこれらを失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条、第九二条を、仮執行の宣言については同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文の通り判決した次第である。

(西野喜一)

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